Side by Sideの背景
人はその知能、才能、身体能力の個人差に関わらず、等しく働く喜びを享受できる権利がある。弱肉強食の動物の世界とは違う、成熟した人間社会ならではの、そんな思想がドイツで生まれたのは中世の頃といわれています。
障害者たちにも、働くことで、人としての生き甲斐や喜びを実感できる場所と環境を保証しよう。症状の重さや個々の力量に見合うシステムと仕事を国や社会が用意しよう。ドイツの障害者工房は、そんな想いから誕生し、今も主要各都市に点在し、その活動を続けています。
そして、国の財政援助や税制免除を受けることで、それらの工房の運営や財政管理を行っているのが、他にも高齢者やホームレスの住宅問題などの社会的プロジェクトに関わっている、カトリック系のカリタス、リーベンスヒルフェ、プロテスタント系のディアコニーといったいくつかの大きな福祉団体です。
ただし、障害者工房は、決して国や社会に一方的に依存することで成立、継続しているわけではありません。工房の施設、設備、機械の購入代金や維持費、そして、そこでプロジェクトを推進、指導する健常者への人件費に関しては、国や福祉団体が負担していますが、プロダクト製造に関わる仕入れや工房で働く障害者に支払われる賃金など実質的運営費は、基本的にはすべてプロジェクトの売り上げからまかなわれています。つまり非営利団体でありながら、あくまで独立採算が前提たとなっているわけです。
障害者ちが安心して働くためのシステムと環境を、優遇措置をとることなどで実現しながらも、彼らの能力や仕事に見合った社会的責任を負わせる。そして、その自覚が働くことの喜びと誇りを育てる。障害者が、過剰な負担を背負うことなく、しかも卑屈になる必要もなく、社会の一員となれる。ドイツの障害者工房は、まさに健全な国と社会が生んだ理想的システムといえるでしょう。
そして、今回、日本上陸を果たしたこのside by sideも、実はそのドイツの障害者工房が中心となって取り組んだ最新プロジェクトのひとつなのです。ただし我々がside by sideに惚れ込んだのは、決してその思想やシステムに共感したからだけではなく、あくまで、その機能美と品質に純粋に感銘を受けたからに他なりません。しかし、できあがったプロダクトから伝わってくる真摯さと温かみが、その出自を、もし、観る者にどこか感じさせるとすれば、それは決して偶然ではないとも我々は考えます。 |